Ear Has No Lid

iPad Pro + AUM + LoopyPro+α によるエクスペリメンタルミュージック プロジェクト

iPadの音楽アプリのインターフェース考 -形態は機能を現す

iPad向けにはシンセサイザー、サンプラー、エフェクターの豊富な音楽アプリが存在する。開発者ごとに個性があり、ハードウェアでは実現不可能なソフトウェアならではの個性を備えている。それらをデザインや機能面からみると、大きく次の種類に分けられる。

(1) 現実世界のハードウェアをそのままもち込んだスキューモーフィズ(Skeuomorphism)デザインのアプローチのもの

(2) フラットデザインと呼ばれるニューモーフィズム(neumorphism)に変換されたもの

(3) タッチデバイスの特性を最大限に活用して、ボタンやノブを使用せずに、タッチインターフェースに特化したデザインのもの

(1) 既存のシンセサイザーをエミュレータするスキューモーフィズ(Skeuomorphism)型

MoogやARPなどといった実在するシンセサイザーをエミュレートするアプリは、既存の実機との互換性の観点からも実機そのままの外観でツマミやノブがデザインされている。ただ、アプリ化されるにあたり、シンセサイザー本体だけでなく、エフェクターなどのオプションが一緒だったり、純正のシーケンサーやドラムマシンが付属しするものもある。

Moog社のオフィシャルのMini Moogアプリ。ディレイやルーパーなどが付属

Arpにはシーケンサーやパッドが付属

そうしたアプリでは、オリジナルハードウェアの特長のあるサウンドが非常に良く再現されていて、外部のPAに接続してのライブやレコーディングでも充分に活用可能。ボタンやスイッチを操作して作成した設定を保存することができるのはアナログシンセの実機はない利点で、制作途中のものを保存したり、演奏中に設定をロードしてサウンドを切り替えて演奏したりとアプリならでは使い勝手を良さ活かせる。

モジュラーシンセのmiRackの画面

設定を保存できることのメリットの恩恵を最も受けるのはモジュラーシンセだろう。何十本ものケーブルで接続されたパッチの状態を保管して、瞬時で呼び出せる。実機だと数十万円以上もするようなモジュール構成でも、アプリなら非常に低コストあるいは無償で構成することができ、作曲、演奏だけでなく学習用や実機構成の検証用として果たす役割も大きい。

(2)モダンなニューモーフィズム(neumorphism)インターフェース

シンセアプリで一番多いのがこのジャンルではないだろうか。開発者の個性やサウンド面、機能面での特長がインターフェースデザインにダイレクトに反映されている。

このImaginandoのアナログシンセのDRCもその一つ。ノブやスライダーはシンプルな線による表現になり、オシレーター、フィルター、エフェクターなどを、ブロック単位で複数の画面を切り替えて設定していく。直感的に操作できるし、アプリには実機のようなスペースの制限がないので画面を切り替えることで、多様なコントロール要素を実装している。

DRCのストイックな黒と線だけのデザインに対して、BLEASSのMonolitはモジュール単位でカラフルなデザインを採用しており、それは出てくるサウンドトーンにもつながっている。

エフェクターアプリもこうしたデザインのものがあり、UAのLO-FI-AFは、元のサウンドにノイズや変調を加えることでサウンドをロウファイ化するアプリで、左から右に向かって、機能がブロック単位で整理されている。

(3) タッチインターフェースに特化したデザインのもの

これまでのスイッチやノブ、スライダーといった概念から離れて、画面直接触れて操作や演奏を行うというタッチインターフェースの特性を活かした音楽アプリは、まだ数は少ないが、個人的にはユニークなサウンドを生み出すには欠かせない存在になっている。中でも、Eric Sigthが開発した e-l-s-a, shapesynth, strng, frekvnensは、これまでの音楽アプリのアプローチやインターフェースとは全く異なるもので、そのサウンドは他では得られない。

ファーストアルバムでは、frekvnensのフィルタ機能をかなり使用したし、3曲目の「an awakening of an ocean」の後半のロングトーンのディストーションギターのように聴こえる音はstrngで演奏されている。

earhasnolid.com

この分野では Marcos Alonsoが開発したグラニュラーサンプラーのSamplrが有名。タッチインターフェースはサンプラーが向いている分野かもしれない。楽曲の一部やフィールドレコーディングしたサウンドなどをアプリ内に取り込み、それらを変調して画面上で分割、あるいは再生パターンを設定して、リズミックにもドローンとしても自由に演奏することができる。シングルでリリースした「1963」の2曲目「There was a hope」の後半部分は、iPhoneで録音したピアノの演奏を、このアプリにサンプリングして逆再生したり、分割して演奏したものをミックスしている。

earhasnolid.com

こうした音楽アプリは、単に演奏するだけでなく、プラグイン規格のAUv3やAbleton Link、MIDIに対応しているので、アプリ間で組み合わせたり、ハードウェアにMIDIコントローラーで操作することでさらに音楽性を広げることもできる魅力も大きい。